福島地方裁判所 昭和24年(ワ)46号 判決
原告 秋山五郎丸 外六名
被告 日本発送電株式会社
一、主 文
原告等の請求を棄却する。
訴訟費用は原告等の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は、昭和二十三年九月十一日被告のなした原告Gに対する解職、並びにその他の原告に対する休職の無効なことを確認する。訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、その請求の原因として、原告等は、いずれも被告会社の従業員であり、日本電気産業労働組合(以下組合という。)猪苗代分会の組合員である。原告等所属の組合と被告会社との間の労働協約第六条第一項は「会社は従業員を解雇せんとするときは、予め組合と協議するものとす。但し停年退職、及び別に定むる懲戒解職の場合はこの限りにあらず」と定め、第七条は「会社は従業員の労働条件に関し組合との協議を経ずして従業員に不利益なる変更をなさざるものとす。」と定めてあり、さらに第六条第一項に関しては「会社と組合との間に予め協議整わざるときは会社は一方的に従業員の解雇をなさざるものとす。」「同条第一項但書の別に定むる懲戒解職の場合」とあるは、刑法上明かに破廉恥罪を構成する如き重大なる事実ありたる場合に限るとの会社側の覚書がある。また被告会社が昭和二十二年十月に出した社員規程第十二条は「次に掲げる場合には期間を定めて休職を命ずることがある。(4)起訴せられ又は刑に処せられたとき」と定めてあるが、この点については、組合会社間に協議が整わず、現行社員規程に対し、組合は、拒否権と修正権を保留しているから、同規程は、法的に効力を有しない。組合は昭和二十二年九月(一)最低賃金スライド制の確立、(二)電気事業の民主化、(三)統一労働協約の締結の三大項目外七項目の要求をかかげて中央労働委員会に提訴以来、半年にわたる苦難な闘争を経て、昭和二十三年三月二十五日ようやく賃金スライドに関する事項のみの仮協定が成立した。然るに会社側は、この協定の実施を怠り、政府またその責任を回避し、客観情勢の変化に伴い、電気事業の分断を策し、或は職階制賃金を持ち出し、或は金繰を理由に賃金の遅払をなし、一方的人事の移動を強行して、交渉は遅々として進まなかつたため、組合は、同年五月二十四日全国にわたつて、一斉事務ストライキを敢行する事態に立ち至つた。日本有数の電源地帯を占める電産猪苗代分会は、電気事業の急速な復興を念じて、同年四月末日、二回にわたる分会大会の決定に基き、前記三大要求を含む十項目の要求書を会社側に提出し、たびたび交渉を重ねたが、ついに五月二十四、二十五、二十六日の中央における被告会社総裁との交渉は、会社側の不誠意により決裂し、最後的段階に突入した。当時たまたま福島県知事の地労委職権委嘱問題が、全労働者の反対にもかかわらず、労働者の自主性を奪う非民主的態度で強行されようとし、全労働者は、労働法規の改悪を防止し、基本的人権を擁護しなければならない窮地に追いこまれていたので、電産猪苗代分会は、意を決し、組合員の総意に基き、六月八日、九日の両日にわたり、電源ストライキを断乎決行した。右闘争行為に対し、福島地方検察庁は、福島県地方労働委員会の公訴提起の請求により、原告等を起訴し、昭和二十四年二月七日福島地方裁判所において、懲役四月乃至三月、いずれも二年間刑の執行猶予の判決を受けた。また本争議中猪苗代分会支社班委員長である原告Gは、進駐軍に対する情報提供不当拒否のかどで、軍事裁判により重労働五年最後の四年六月執行猶予の判決を受けた。被告会社は、原告等本人にはもちろん、組合にも何等の予告も協議もなく、突如昭和二十三年九月十一日附で、原告Gに対しては解職、その他の原告等に対しては休職の処分をした。しかし、労働基準法第九十二条は、法令又は労働協約に反する就業規則は無効である旨及び改正前の労働組合法第二十二条(現行法第十六条)は、労働協約に定める労働条件その他の労働者の待遇に関する基準に違反する労働契約は無効である旨を規定し、また本件労働協約第六条、第七条は、会社が従業員を解雇しようとするとき又は会社が従業員の労働条件に関して不利益な変更をする場合は、いずれも組合との協議を経ることを要する旨を規定してあるのに、被告会社は、前記労働協約に違反して組合との協議を経ることなく、且つ会社組合間に未だ協議の整わない社員規程を適用して、原告等を休、解職の処分に附したのである。なお、被告会社は次のとおり原告等に対し不利益な取扱をしている。すなわち、昭和二十四年一月中会社は、従業員の能力給の調整を一方的に実施し、昭和二十三年十月一日附で能力給を平均一三・六五%の率で引上施行した。その引上率は、個人によつて異るが、一〇乃至三〇%の間において行われ、昭和二十三年十月からの差額が支給された。然るに、会社は解職、休職された原告等を、社規によるといつて、引上の対象から除外した。組合は、数回にわたつて、原告等の能力給引上を要求したが、会社は、解職、休職の問題が解決されたときに考慮すると放言して、未解決のままである。被告会社は、右除外は、能力給基準査定要綱に基き、休職中の原告等を査定の対象外においたのであるから、労働協約第七条に違反して、同人等を不利益に取り扱つたものでないといつているが、休職が不利益な待遇であることは、休職者が能率給による昇給の機会を与えられないことによつても明らかである。能力給は基本給にはいるもので、いわゆる基準内賃金であり、従つて労働基準法第一条にいわゆる労働条件(賃金、就業時間、休息、その他)をなすものである。従つて、被告会社が、休職処分に附された原告等を前記能力給改訂の際その対象から除外したことは、右休職の結果、実質上明かに労働条件を不利益に変更したものであるから、この休職処分について、被告会社が組合と協議をしなかつたことは、労働協約第七条の規定に違反するものである。
以上のとおりで、本件解職、休職処分は、前記労働協約第六条、第七条の規定に違反し、第六条に関する覚書の解釈を誤り、且つ法的に効力を有しない社員規程を不当に適用した無効のものであるから、その確認を求めるため本訴に及んだ次第であると述べ、
被告の主張に対し、原告A、B、Eが被告主張のように依願退職したかどうかは、連絡がないのでわからないが、仮に依願退職したとしても、その間不利益な待遇を受けていたから、本件無効確認を求める利益がある。また仮に、社員規程が被告主張のように組合の同意を得たものとするも、労働協約に定める「組合との協議」を要しないという理由にはならない。いわんや、右社員規程には、休職、解職の条項の定があるのみで、かかる場合に組合と協議を経なくともよいという趣旨の定はない。これは、労働基準法及び労働組合法により当然労働協約によるべきことが明らかにされているためである。社員規程第六十四条の懲戒委員会の審議労働基準監督署の解雇予告除外認定の如きは、むしろ枝葉末節の手続に過ぎない。また社員規程第六十四条は、会社の体面を汚した者は懲戒することになつており、その第六十五条は、懲戒の種類を、けん責、減給、休職、解雇の四種と定めておる。その懲戒解職は、労働協約第六条の規程により会社は、組合と協議することなく、これをなすことができるが、解職は、従業員にとつては、その職を失う結果となる最も重大な懲戒であるから、懲戒解職については、特にこれをすることのできる場合を限定し、会社の一方的見解によつて、従業員がその職を奪われることのないようにするため、労働協約に附随して前記覚書を作成するに至つたものである。ところが、覚書にいわゆる破廉恥罪を構成する如き重大なる事実というのは、単に重大なる事実とは異り、破廉恥罪を構成する如き事実でなければならないことは、その立言の体裁に懲するも明らかである。換言すれば、国民感情上恥ずべきものとせられる破廉恥的観念に制約せられるものであつて。破廉恥的性格をおびないものは、いかに重大な事実であつても、懲戒解職の事由には該らないものと解すべきである。原告Gが、電源ストライキに際し、進駐軍に対する情報提供不当拒否のかどで、軍事裁判の判決を受けたことは占領下にある現在の日本において、占領軍の命令を守り、占領政策に服することが、日本国民当面の最大義務であることを思えば、誠に重大な事実ではあるが、これは右覚書にいわゆる破廉恥罪を構成する如き重大な事実であるということにはならないのであるから、同原告に対する懲戒解職は、前記覚書、ひいては労働協約に違反し、その効力を生じないものであると述べた。
被告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、原告主張の事実中、原告Gを除くその余の原告等が、被告会社の従業員であること(原告Gは、かつて従業員であつたが、現在は従業員ではない。)原告所属の組合と被告会社間の労働協約第六条第一項第七条が原告主張どおりの条項であること、第六条第一項に関し原告主張のような会社側の覚書があること、被告会社々員規程第十二条に原告主張のような規定のあること、右社員規程に対し、組合が修正権を留保したこと、組合が、昭和二十二年九月原告主張のような十項目の要求をかゝげて中央労働委員会に提訴し、半年にわたつて闘争したこと、昭和二十三年四月末日電産猪苗代分会が前記十項目の要求書を会社側に提出して交渉を重ねたこと、同分会が、同年六月八、九の両日ころ電源ストライキを行つたこと、右闘爭行為に対し、福島地方検察庁は、福島県地方労働委員会の公訴提起の請求により、原告等を起訴し、昭和二十四年二月七日福島地方裁判所で、懲役刑、いずれも執行猶予(刑期は六月乃至三月である。)の判決言渡のあつたこと、本件爭議中、原告Gが、進駐軍に対する情報提供不当拒否のかどで、軍事裁判に附せられ、重労働五年、最後の四年六月執行猶予の判決を受けたこと、被告会社が、昭和二十三年九月十一日附で原告Gに対し解職、その他の原告等に対し休職の処分をしたこと及び被告会社が、昭和二十四年一月中旬従業員の能力給の調整を実施し、大約一〇乃至三〇%、平均一三、六五%の引上をし、昭和二十三年十月一日附でこれを実施し、同月から差額を支給したが原告等には、差額を支給する処置をとらなかつたことは、これを認めるが、政府が、電気事業の分断を策したこと、組合が、そのころ全国的に一斉事務ストライキを敢行する事態に立ち至つたこと、電産猪苗代分会の被告会社に対する十項目の要求が原告主張のような理由に基くものであること及び福島県知事の地労委職権委嘱問題が、全労働者の反対にもかゝわらず、労働者の自主性を奪う非民主的態度で強行されようとし、全労働者は、労働法規の改悪を防止し、その基本的人権を擁護しなければならない窮地に追いこまれていたことは不知、その余の事実はこれを否認すると述べ、
先ず、原告A、B及びEの三名は、昭和二十五年八月三十日依願退職し、被告会社の従業員でなくなつたから、同原告等は、本件休職処分の無効確認を求める利益を有しないものであると述べ、
次に原告等の本訴請求の失当な理由を次のとおり述べた。
組合と被告会社間の労働協約第六条及び同条第一項に関する覚書によるときは、停年退職、依願退職及び刑法上明らかに破廉恥罪を構成するような重大な事実があるため懲戒解職する場合には、予め組合と協議をする必要もなく、その同意を得る必要もない。また労働協約第六条、第七条及び覚書によるときは、被告会社は、組合と協議をしないで、組合所属の従業員の労働条件を不利益に変更することは、できないのであるが、第七条にいわゆる「労働条件」が、「労働条件の基準」を意味するものであることは、前記協約第四条に基き、被告会社と組合との間に定められた「経営協議会に関する件」第三条において、会社と組合との経営協議会の附議事項を「従業員の労働条件の基本に関する事項及び人事管理の基準に関する事項」と規定している事実に撤して明らかであるから、被告会社が、組合所属の従業員の「労働条件の基準」を不利益に変更することなく、労働条件の基準に従い、個々の従業員の賃金を決定支給し、転勤、休職を発令し、懲戒解職をすること等は、被告会社の経営権の範囲に属する事項で、組合と協議し、又はその同意を得ることなく、被告会社が当然に処理し得るところであり、かかる処理の結果、特定の従業員に事実上不利益を及ぼすことがあつても、労働協約第七条にいわゆる「労働条件」を不利益に変更したものということはできないのである。また昭和二十二年十月二十二日まで施行されていた被告会社の旧社員規程第二十二条には、同月二十三日から施行された現行社員規程第十二条と、旧社員規程第五十七条には現行社員規程第六十四条と、旧社員規程第五十八条には現行社員規程第六十五条と、それぞれ同趣旨の規程があつたのであり、旧社員規程の前記各条は、組合所属の従業員の「労働条件の基準」となつていたものであるから、現行社員規程の前記各条を制定実施することは、労働協約第七条にいわゆる「労働要件」を何等不利益に変更したものではない。従つてかゝる規定の実施にはもともと組合と協議する必要はないのである。仮に組合と協議する必要があるとしても、現行社員規程は、昭和二十二年一月中組合から被告会社の諸規程民主化の要求があつたため、被告会社において立案の上、労働協約第四条、経営協議会に関する件第三条の規定に基き、同年九月八日から開催された会社組合間の経営協議会に附議し、同年十月二十日組合から、「組合は修正権を保留するも現行社員規程を施行して支障ない」という趣旨の回答を得たので、同月二十三日よりこれを実施したものである。しかるに、その後組合は、同社員規程第十条第一項第一号、第十二条第一項第四号及び第十九条第一項第三号にそれぞれ「刑」とあるのを「破廉恥罪」と改めること、第六十四条中「又は重過失」といあるのを消除すること、第六十六条全文を「懲戒に不服あるときは懲戒委員会に異議申立ができる」と改めることの修正要求があつたのみであるから、現行社員規程は、少くとも右修正要求部分を除いては、労働協約第五条にいわゆる「経営協議会において会社との間に協議成立した事項」に該当し、同条により被告会社と組合とは、誠意をもつて、これを実施しなければならないのであり、旧労働組合法の実施されていた当時においては、単に就業規則たるに止まることなく、労働協約の一部をなしたものということができる。従つて被告会社は、組合所属の従業員に破廉恥罪又はこれと同価値若しくは同価値以上の事実があつたときは、労働協約第六条第一項但書及び覚書により、組合と協議することなく、右従業員を解雇することができるのであり、又現行社員規程第六十四条第三号の「被告会社の体面をけがした者」、同条第六号の「不都合な行為のあつた者」として、同規程第六十五条により、これを懲戒解職することができるのである。また従業員が起訴せられ又は刑に処せられたときは、同規程第十二条の規定により、労働協約第七条の協議をするまでもなく、右従業員に休職を命ずることができるのである。且つこの規程は前述のように労働協約の一部をなすものであり、労働協約第六条第一項及び覚書はずれも解職に関するもので、休職の場合に適用されないものであることは、文理上明らかであり、労働協約には、休職発令につき、組合の同意又は組合との協議を必要とする旨の規定もないのであるから、被告会社は、起訴せられ、又は刑に処せられた従業員に対し、組合と協議し、又はその同意を得ることなく、被告会社の経営権の当然の行使として、休職を命ずることができるのであつて、右は労働協約第七条に違反するものではない。ところが、原告Gは占領軍に対する情報提供を不当に拒否したため、昭和二十一年勅令第三百十一号により占領政策違反として、昭和二十三年七月二十八日、二十九日の軍事裁判において重労働五年(内四年六月執行猶予)の判決を受けたが、占領軍進駐下、国民みなが進駐軍の命令を守らなければならないわが国現在の事実からみるとき、同原告が右のように処罰されたことは、覚書にいわゆる「破廉恥罪」以上の「重大な事実に該当すると同時に、被告会社の従業員として被告会社の体面を汚したものであり、不都合な行為であるから、被告会社は、前記協約第六条第一項但書及び前記覚書並びに現行社員規程第六十四条、第六十五条の規定により、懲戒委員会の審議を経、且つ、会津労働基準監督署から、同原告に対する解雇予告除外の認定を得て、同原告を懲戒解職したものであり、また同原告以外のその他の原告等は、労働関係調整法第三十七条及び電気事業法第三十三条第一項違反として福島県地方労働委員会よりの公訴提起の請求に基き、福島地方検察庁より起訴せられ、昭和二十四年二月七日福島地方裁判所において懲役六月乃至三月(いずれも二年間執行猶予)の判決言渡を受けたのであるから、被告会社は、現行社員規程第十二条の規定に基き、起訴継続中同原告等に休職を命じたものである。
以上のとおりであるから、本件解職及び休職は、いずれも法令や労働協約に違反するものではなく、適法有効であるから、原告等の本訴請求に応ずることはできないと述べた。
(証拠省略)
三、理 由
原告七名が、被告会社の従業員であつて、(但し被告は、原告Gは、本件解職により、また原告A、B、Eは、昭和二十五年八月三十日依頼退職したため、従業員たる身分を失つたと主張する。)日本電気産業労働組合猪苗代分会の組合員であること、被告会社と右組合との間に結ばれた労働協約第六条第一項に「会社は従業員を解雇せんとするときは予め組合と協議するものとす、但し停年退職、依願退職及び別に定むる懲戒解職の場合はこの限りにあらず」との、第七条に「会社は従業員の労働条件に関し組合との協議を経ずして、従業員に不利益なる変更をなさざるものとす」との規定があり、第六条第一項に関しては、「会社と組合との間に予め協議調わざるときは会社は一方的に従業員の解雇をなさざるものとす、「同条第一項但書の別に定むる懲戒解職の場合」とあるは刑法上明らかに破廉恥罪を構成する如き重大なる事実ありたる場合に限るものとす」との被告会社側の覚書があること。被告会社の社員規程第十二条に「次に掲げる場合には期間を定めて休職を命ずることがある。(4)起訴せられ……たとき」との規定があること、福島地方検察庁が、福島県地方労働委員会の公訴提起の請求に基き、原告七名を起訴したこと、原告Gが軍事裁判により重労働五年、最後の四年六月執行猶予の判決を受けたこと及び昭和二十三年九月十一日被告会社が原告Gを解職し、その余の原告六名に休職を命じたことは当事者間に爭なく、甲第四号証、第五号証の一乃至七によれば、被告会社は、社員規程第六十四条第一項第三号、第六十五条の規程によつて右解職をし、同規程第十二条第一項第四号の規定により右休職を命じたこと及び同規程第六十四条第一項第三号は「社員で次に掲げる各号の一つに該当するものがあるときは懲戒委員会で審議の上これを懲戒する。3、会社の体面をけがしたもの」と規定し、第六十五条は「懲戒は次の四種としその行為の軽重によつてこれを行う。4、解雇(職)」と定めてあることが認められる。
よつ先ず原告A、B、Eの請求について考えてみるに、証人aの証言によると、右原告三名は、昭和二十五年八月三十日依願退職して、もはや被告会社の従業員でなくなつたことが明らかであるから、同原告等は、今日その従業員であつた当時になされた本件休職処分の無効を即時に確定する利益を有しないものといわなければならない。何となれば、休職処分は、これを命ぜられた従業員が、その身分を失うとともにその効力を失うのであるから、従業員でなくなつた後に、かつてなされた休職処分の有効無効を争つても、何等の利益がないことが明らかだからである、原告訴訟代理人は、同原告等は、本件休職以来依願退職までの間、右休職によつて不利益な待遇を受けたから、今日なおその無効確認を求める利益があると主張するが、仮に同原告等が右休職の結果不利益な待遇を受けたとしても、休職そのものは、被告会社と同原告等との間に現存する法律関係ということができないのであるから、右主張は採用しない。従つて同原告等の本訴請求は、既にこの点で失当であるから、これを排斥する。
次に原告G、C、D、Fの請求について案ずるに、同原告等が、本件解職、休職を無効であると主張する理由は、これを要約すれば、右処分は、被告会社と組合との間に効力を生じていない社員規程を適用してなされたこと、解職については、労働協約第六条第一項但書に関する会社側の覚書の解釈を誤つていること及び休職は、従業員の労働条件を従業員の不利益に変更するものであるから、労働協約第七条の規定により組合と協議をしなければならないのに、本人にはもちろん、組合にも、何等の協議も予告もなく行われたことの三点に帰着するから(原告Gが、本件解職は、組合との協議を経ないで行われたから無効であるとの請求原因を維持するものでないことは、その弁論の全趣旨で明らかである。)以下右爭点を順次に検討する。
甲第二号証、第七号証(乙第六号証)、甲第九号証、乙第四号証第七乃至第九号証を総合すると、被告会社は、昭和二十二年一月ころ組合からの諸規程民主化の要望に応じて、当時施行されていた旧社員規程にかわる現行社員規程の起草に着手し、同年八月その成案を得たので、被告会社側委員若干名と組合側委員十一名以内とで組織されている経営協議会にこれを附議したところ、その後同年十月二十日ごろ、組合は、「会社側の責任においてこれを実施することを認める。但し組合側は、修正権を留保する。」と回答したので被告会社は、右社員規程を同月二十四日から実施したこと及び昭和二十三年五月組合側から一部修正の提案があつたが、その第十二条、第六十四条、第六十五条のさきに記載した部分については、何等の修正要求がなされなかつたことを認めるに十分であるから、該部分が有効に成立した社員規程であることはいうまでもなく、被告会社が、これを適用して本件解職、休職の処分をしても、これを違法ということはできない。
次に労働協約第六条第一項但書の「別に定むる懲戒解職の場合」とあるは刑法上明らかに破廉恥罪を構成する如き重大なる事実ありたる場合に限るものとすという覚書の趣旨を考えるに、その立言の体裁からするも、乙第七、八号証によるも、右は、必ず「刑法上破廉恥罪を構成する事実」があつた場合にのみ限るものではなく、「重大な事実があつた場合」に限るという点に重点をおくものであつて、刑法上破廉恥罪を構成する如きというのは、一の例示に過ぎないことが明らかである。原告Gは、進駐軍に対する情報不当拒否のかどで、昭和二十三年七月二十八、二十九日の軍事裁判により前示のような判決の言渡を受けたものであるが、わが国がポツダム宣言の受諾によつて連合国の管理下におかれ、全国民が、占領軍の発する命令を忠実に守らなければならないときに、同原告が、右のような行為に出たことは、破廉恥罪を犯したよりももつと以上に重大な事実であり、ひいて被告会社の体面をけがしたことになるのはいうまでもないことであるから、被告会社が、覚書、社員規程第六十四条第一項第三号、第六十五条第一項第四号の規定によつて、同原告を懲戒解職したのは相当であつて、無効ではないから、同原告の本訴請求は、これを排斥する。
最後に、本件休職が原告等の労働条件を原告等の不利益に変更したものであるかどうかを考えるに、労働条件には、全従業員に一様に定められる労働条件と個々の従業員につき別々に定められる労働条件とがあるが、旧労働組合法第三章の各規定の体裁からみると、前者は労働協約で、後者は労働契約で、定められるものであることがうかがわれるから、特に反証のない本件では、本件労働協約第七条にいわゆる労働条件は、全従業員に一様に定められた労働条件ということができる。また甲第二号証によると、労働協約第四条(会社は従業員の経営参加を認め別に定むるところにより会社と組合との協議機関として経営協議会を設く。)に基く経営協議会の協議事項を、従業員の労働条件の基準に関する事項、人事管理の基準に関する事項等と定めていることが認められるから、この点からみても、労働協約第七条にいわゆる労働条件は、労働条件の基準という意味であると解せられる。それゆえ、被告会社が、労働協約で定める労働条件の基準に従つてことを処理した結果、たまたまある従業員に不利益をもたらすことがあつても、それは労働条件の基準を従業員の不利益に変更したことにはならないのであるから、被告会社が、組合と協議しないで、右処理をしても、それをもつて、労働協約第七条の規定に違反したものということはできない。更に社員規程は、さきに認定したように、経営協議会に附議し、組合の同意のもとに施行したものであるから、旧労働組合法第二十二条の規定の精神から推すと、社員規程第十二条は、単に社員規程たるにとどまらず、労働協約の一部をなしたものといつても過言ではないから、被告会社が同条第四号の規定に従い、起訴せられた従業員に期間を定めて休職を命じても、それは、労働条件の基準を従業員の不利益に変更するものでなく、従つて被告会社が、組合と協議することなくしてかかる措置をとつても、労働協約第七条の規定に違反するものではない。且つ労働協約及び社員規程には、被告会社が、休職の発令をするについて、組合の同意又は承認を必要とする旨の規定がないから、被告会社は、組合にはかることなく、直ちにこれを発令することができるものといわなければならない。原告C、D、Fの三名は、福島地方労働委員会の公訴提起の請求に基き、昭和二十三年八月十一日福島地方検察庁から起訴せられたのであるから、被告会社が、社員規程第十二条第四号の規定により直ちに本件休職を命じたのは、上述したところにより、毫も労働協約第七条の規定に違反するものではなく、これを無効となすべきいわれがないから、同原告等の本訴請求もまたこれを排斥する。
以上のとおりの理由であるから、民事訴訟法第八十九条、第九十三条第一項本文を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 斎藤規矩三 黒江清 福間佐昭)